「AIR/エア」観てきました。
THE FIRST SLAMDUNKに熱を上げている間に観たい映画がどんどん積み重なっていて。バスケットシューズの話だし、とりあえず近い所から……と選んだ次第です。
観てよかった。すごくいい映画だった。
まんまとナイキのシューズが欲しくなってしまって、悩みに悩んで一足買いました。履いて歩くのが楽しみ。
ナイキとエアジョーダンの話。
なので、観る側の私たちにとっては過去起こった出来事、つまりは現在がその結末に続いている。結果を知っているようなものなのに、はらはらしたしどきどきしたし、ぐっと来た。
お話づくりが巧いな、と感じました。
・セット
当時のオフィスを彩る小物がひたすらかわいい。ちょうどいいレトロ感。生まれるよりも前の時代だけれど、変遷を逆に辿ったセットとしてすごく納得のある光景。いいなあ。
音楽もすごくすごくよかった。あと衣装は、お母さんの、オフとオンできちんと切り替わる装いが大変好き。白いスーツとカラフルなシャツがとっても映える。
・台詞
字幕で観たのでより短い印象になっているのだろうとは思えど、彼等の台詞がどれも「短く効果的」「無駄がない」と感じたことに驚きました。説明しすぎない、けれど意味を落とさない。ちょっとすごい。
「世界中であなただけが知っている」に、「彼を信じているのは私だけ?」と返す場面だとか、「日曜日だけ会える娘がいないからさ」と言われて初めてソニーがすまないと口にするだとか。
そう、映画って小説ではないから、台詞のある場面の情報って言葉だけではなくて、表情、音楽、効果、光、色、全部が画面のこちら側に訴えかけてくるものであるのだと思い知らされました。映画、面白いな……と当たり前の感想をだいじに抱えてしまう。
あとキレるフォークのシーンはすごくニコニコしてしまった。英語は罵倒のバリエーションが豊かでいい。
・シューズ
大きく変わったのは左右の形を違えた時だ。の場面。「斬新なものを」って発注に「簡単に言うけれどね」って返したい気持ちも確かに含んでいるのだろうけれど、わたしは何となくその底に、「そういうものを作りたい」も感じてしまった。革命を起こすものが、自分の手のよって作り出されるのは、どれほど気持ちがいいか。
試作シューズを囲む場面も好きです。「白51%以上」の規定を知ってなお、「赤くしよう。罰金はナイキが払おう。宣伝になる」って言うのはロブなんですよね……!
出来上がったシューズの格好いいことといったらない。
わたしはエアジョーダンの、真っ赤な靴底がとってもすきなんです。
・プレゼン
こっちまで緊張した!!
わたしは持ってるもの全部つかって打てる手を全部打って最良でなくとも最善を選び続けて勝ちを取りに行く姿勢がとてもとてもすきなのですが、小賢しい手回しをたくさんする場面にはにっこりしたしイマイチ受けていない様子にはらはらしたし、そんな空気の中でビデオの途中に意を決したソニーの顔で、身を乗り出してしまった。
君の目を見て君の未来の話をしよう。
誠実だと思った。
これで契約が取れなくても自分は彼に誠実でありたいと決めたのだろうな。まっすぐ言えばワンチャン分かってくれるかもしれない、ではなく。こっちの事情なんて相手には関係ないのだから、渋々だろうがこの場に足を運んでくれた君と、君の話をしよう。
靴は靴だ、というの、すごくいいな。
・スポーツ選手になるということ
スポーツで食べていくということ。これはソニーも言っていたけれど、明日怪我をして引退するかもしれない、とても不安定で先行きの見えない仕事であるのだろう。
デロリスが「ふうんあなたはそう仰るんですね。ではこの話は無かったことに」と切り上げなかったのはひとえに家まで乗り込んだソニーと対話をしていた、同じ「マイケル・ジョーダンに可能性を見ている」ものであることを知っているから。
あなたが口にしたことが全部です。明日には選手生命が立たれているかもしれない。来年競技者をやっているかわからない。だから売り上げの一部をマイケルに。彼の助けになり、彼の後に続く選手たちの助けになるから。
……彼等は作中で別に全然そんなことは言わないのですけれど。あくまでもソニーが言うのは「社会の仕組みにそのようなことはない」で、うちは予算いっぱい、どころかシューズの罰金で脚が出るくらいマイケルに投資をしていて、ナイキのスポーツ部門は崖っぷちで、その上売れるかもわからない今後の売り上げまで?表面にあるのはそんなところ。
でもデロリスは言うんです。彼を信じているのは私だけかと。あなたが私に「世界中であなただけが知っている」と言ったこと、とうのあなたが信じていないわけがないでしょう。
声を荒げず、けれど一歩間違えば破綻する丁々発止、大口の契約を取り付けられなくなるナイキの立場が弱いように見えて、契約内容にないことを迫っているデロリスも背水。コンバースやアディダスは、あなたの言った通り、彼を「期待されるスポーツ選手」のひとりとしか見ない。
売れるかどうかわからないシューズ
いつまで競技を続けられるか分からない選手
先行きを危ぶむのがお互い様なら、私たちはきっと同じ未来を見られる。どう?
あれだけCEOに食って掛かっていたソニーが肩を落としてCEOに相談しに行くのも、それを迎えたフィルが「払うべきだ」「役員には自分から言う」と肩を押すのも、なんだかとてもよかった。
一件向こう見ずなソニーの行動が、責任も立場も重いCEOには絶対できないもので、それでようやく掴みかけた契約を、離させない為に今度は自分が矢面に立とう。
・結末とこれから
そうして契約をとって大団円、よかったよかったで締めるのではなく、「これからたいへんだぞ」を置いておいてくれるのすごくうれしい。そうここが終わりじゃない。はじまりだから。
エンドロール前に字幕でつづられる「その後の事」にほろっときてしまった。そうこれはおおむねまだご存命のひとたちの、過去あったことのはなし……。
もうひとつ最高の体験があって。
ひとのまばらなレイトショー、クレジットまで見て明るくなった劇場から出て行くときふと目に入った前を歩くお兄さんの靴が、赤と黒のエアジョーダンで、なんだかすごくうれしくなってしまった。